3-1

2023年01月31日 公開

 

2021-2022 私のこの3点

 

小川敦生

「クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]」
2021年11月20日—2022年2月23日
東京都現代美術館
ターンテーブル演奏から美術の世界へと表現の幅を広げた米国のクリエイター、マークレーの作品を多数展示し、日本の漫画との関係などを探った意欲的な試み。特にオノマトペを独自に表現したことが印象に残った。

「オルタナティブ! 小池一子展 アートとデザインのやわらかな運動」
2022年1月22日—3月21日
アーツ千代田 3331
編集者からスタートし、キュレーターとして名を馳せた小池一子の活動を総括した企画展。雑誌やポスターとのかかわり、佐賀町エキジビット・スペースでの美術家の顕彰など、活動の多彩さと斬新さに目を見開かされた。

「孤高の高野光正コレクションが語る ただいま やさしき明治」
2022年5月21日—7月10日
府中市美術館
無名の日本人画家や来日した欧米人画家が土産物として描いた絵画を海外で地道に収集した高野光正氏の収集品300点超を公開し、あまり注目されなかった画家たちの動きと明治の日本の農村などの風景の魅力を見せた。

 

加須屋明子

「Art Collaboration Kyoto」
2021年11月5日—11月7日
国立京都国際会館
行政と民間の協働によるアートフェア。トップダウンではなく作家、ギャラリスト、コレクター、キュレーター、批評家、研究者など現代美術を取り巻く様々な立場から共に作りあげる姿が新たな可能性を感じさせるものであった。

大阪中之島美術館開館記念公演「森村泰昌×桐竹勘十郎 人間浄瑠璃 『新・鏡影綺譚』」
2022年2月26日、27日
大阪中之島美術館
美術家の森村泰昌が人間国宝の桐竹桐勘十郎と共演。森村がオリジナルの床本を書きおろし、自ら人形となって勘十郎に遣われる。文楽第一線で活躍する鶴澤清介作曲、三味線演奏、語りは竹本織太夫。上方文化の新境地が開かれた。

特別展 兵庫県立美術館開館20周年「関西の80年代」
2022年6月18日—8月21日
兵庫県立美術館
兵庫県立近代美術館(当時)開催の「アート・ナウ」を軸としつつ、80年代の躍動感と活気あふれる時代を再検証する好企画。色鮮やかで巨大な作品が空間にのびやかに配置される。当時の記録・アーカイブも示されて貴重な試みであった。

 

川浪千鶴

「もしも、ベラミで 岡田裕子・三田村光土里 女ふたり藝術ショータイム」
2022年3月4日—3月27日
ベラミ山荘、Operation Table(共に福岡県北九州市)
キャバレーベラミは、石炭の積出港として70年代まで繁栄した若松のシンボル。ホステスたち元従業員の寮だったベラミ山荘を舞台に、昭和の女たちの労働と日常を虚実交えた映像と妖しいインスタレーションで鮮やかに蘇らせた。地域の記憶と時代を見据える真武真喜子の企画力に拍手。

「田部光子展 希望を捨てるわけにはいかない」
2022年1月5日—3月21日
福岡市美術館
九州派のメンバーとしてではなく、福岡で活動し続けるひとりの女性アーティストとして、その美術と思考の軌跡を初紹介。サブタイトルが伝える田部の態度と美術を通じて発信してきた社会変革のメッセージは、郷土作家の回顧展という域を超え、現代を生きる多くの鑑賞者の心を捉えた。

『段々降りていく』展における外山恒一展示検討の記録」のウェブ公開(熊本市現代美術館)と、「光と陰のアンソロジー この世界にただ独り立つ」(つなぎ美術館)での外山表現の展示実現
記録集:2022年3月31日公開 https://www.camk.jp/blog/6617/
展覧会:2022年9月10日—11月13日 つなぎ美術館(熊本県葦北郡)
政治活動家で革命家•外山恒一の表現公開を見送った熊本市現代美術館が、行政との協議をオープンにした貴重な記録集。外山の活動の芸術的側面とは?公立美術館における展覧会の意味とは?という問いは真摯。その展示プランが県内他館の新たな企画展で実現されたことも興味深かった。

 

小勝禮子

長く活動した女性アーティストの回顧展開催
「Viva Video! 久保田成子展」(東京都現代美術館 2021年11月13日—2022年2月23日)、「田部光子展 希望を捨てるわけにはいかない」(福岡市美術館 2022年1月5日—3月21日)
息の長い履歴をもつ前衛女性アーティストの全貌を見せた回顧展2本を上げたい。渡米してビデオ・アートの先駆者として活動した久保田成子。1950~60年代に九州派の一員として活動後も、長く九州の女性美術家を牽引した田部光子。ともにもっと早く顕彰されるべき作家だった。

東京都美術館のギャラリーを使った学芸員企画の展覧会 
「Walls & Bridges 壁は橋になる」(2021年7月22日—10月9日)、「Everyday Life:わたしは生まれなおしている」(2021年11月17日—2022年1月6日)
通常、団体展などが開かれるギャラリーを使って、学芸員企画の批評眼が光る企画展が2展続いた。増山たづ子、東勝吉など美術家ではない人の表現の強さ、常盤とよ子の赤線地帯の女性の写真、丸木スマの動植物の絵画など、表現の原点に立ち返らせてくれる。

京都精華大学ギャラリーリニューアル記念展「越境—収蔵作品とゲストアーティストがひらく視座」
2022年6月17日—7月23日
京都精華大学ギャラリーTerra-S 
大学ギャラリーが企画展示し収蔵してきた作家たちと現代の新世代の作家たちのコラボレーションにより「ジェンダー/歴史」、「身体/アイデンティティ」、「土地/記憶」における「越境」を問う。退職したレベッカ・ジェニスン教授から次世代の大学研究者、学芸員への継承もしっかりなされた。

 

中塚宏行

特別展「ひみつの花園 —Our secret flower garden—」
2022年5月4日—6月19日 
東大阪市民美術センター
現代美術のイメージや認知度が低い河内地域で、高校ラグビーの聖地に隣接するということで「花園」をテーマとした。作家選定(今村文、大塚泰子、奥田美樹、山田純嗣、渡辺英司)や展示も良かったし、昨年度、展示完了後にコロナで開催を断念しながら再び開催できた。

川田喜久治展「地図」
2022年5月14日—6月18日
The Third Gallery Aya(大阪市)
泥だらけの水の中でしわくちゃになった日の丸のモノクロ写真を、若い頃に美術雑誌で見た時の強烈な印象がずっと記憶の中に残っていた。作品展示、川田と石内都との対談、写真集出版でその全体像を初めて把握できた。

橋本倫「幸福論〜エクスタシーの形而上学」
2022年6月3日-25日
+Y GALLERY(大阪市)
2017年大阪の+Yでの展示と2014-15年「スサノヲの到来-いのち、いかり、いのり」展(足利市立美術館、DIC川村記念美術館、道立函館美術館、山寺芭蕉記念館、渋谷区立松濤美術館)の図録に強い印象を受けていた。日本人による現代油彩画のひとつ。

 

早見 堯

橘田尚之「反射光に晒されて」
2022年3月31日-4月24日
gallery21yo-j(東京都世田谷区)
たとえばD・エリントン「Aトレインで行こう」に乗って目はアルミ(AL)の表面を揺れながら旅をする気分。表面とその外部や裏側のざわめき輝く空間が次々に迫ってくる。潜在している可能性としての絵画が現れる。

収蔵作品展「70周年をふりかえる 同時代の展望と収集(2)1960–80年代」とその中の高松次郎《No.273(影)》(1969年)と中村功《無題1984 No.1》(1984年)
2022年5月15日-10月2日 
東京国立近代美術館
1965年以後の高松次郎《影》から「芸術の現実化」を経た20年後の1984年「メタファーとシンボル」展の中村功は芸術再構築の始まりだった。細部のカオスと全体のコスモスのカオスモスの動きは絵画の醍醐味だ。

内倉ひとみ個展「Lumière」
2022年9月2日-9月25日 
アートフロントギャラリー(東京都渋谷区)
空気感のある光が漂うエンボスの「リュミエール」では、目を移動させるに連れて光と陰が生成消滅をくり返す。内部に浸透していく光と陰が内部から湧きでる光と陰に照応して、わたしを意識の薄明かりへと連れ戻す。

 

深川雅文

「Viva Video! 久保田成子」
2021年11月13日—2022年2月23日 
東京都現代美術館
メディアのアートはいかなる形で可能となるのか? ヴィデオという当時のニューメディアに取り組んだ久保田成子という不世出の日本人アーティストを通してその道を照らし出した。彫刻に始まる彼女の造形感覚がその根底にあることを認識した。

「野山のなげき」
2022年1月26日—2月5日
Room_412(東京渋谷区)
今日、アヴァンギャルドはもはやあり得ないのか? という「なげき」に似た問いの地平上に、野心的な作家5名の作品を配し、新たな日本アートの活断層を浮上させた。キュレーションは番場悠介。中本憲利による作家論も出色。

「惑星ザムザ」
2022年5月1日—5月8日(5月14、15日のみ会期延長)
小高製本工業株式会社 跡地(東京都新宿区)
ザムザの名が暗示する不条理の日常化という世界観を廃墟的空間での17名の作家により顕在化。さらに、終末論が恒常化して永劫回帰する新たな時間感覚を招来していた。布施琳太郎によるキュレーション。

 

藤嶋俊會

「都市デザイン 横浜 展~個性と魅力あるまちをつくる~」
2022年3月5日—4月24日
BankART KAIKO(横浜市)
本展は作家の芸術表現としての作品を展示する展覧会ではなく、横浜市が1960年代から進めてきたまちづくりをデザインという視点で捉えた資料展である。しかしそこには芸術によるまちづくりの様々な様相を見ることが出来る。

NPO法人BankART代表池田修(1957年大阪生れ)、2022年3月15日小脳出血でみなと赤十字病院に搬送入院、翌日16日朝病院で死去、没年64歳
池田は横浜市が進める文化芸術創造プロジェクトの一役を担い、2004年にBankART1929を立ち上げ、代表として数々の現代美術展を企画してきた。上記展覧会も仕掛け人の一人として関わっており、志半ばで急逝した。

「Walls & Bridges  世界にふれる、世界を生きる」
2021年7月22日—10月9日
東京都美術館
出品者は5人、何らの共通性もない。しかし作品は構えることなくリラックスして見ることが出来る。プロといってよい人の作品とアマチュアの作品を並べることによって、全体が目指している芸術表現の核心に触れたような気がする。

 

藤田一人

日本芸術院改革後、初の新会員選考
映像、マンガ等を新たに加え、新会員候補推薦に外部有識者を交えるなどの改革を図った日本芸術院。ただ、問題視されてきた「第1部(美術)」には変化が見られず、改革は道半ば。

「彫刻刀が刻む戦後日本─2つの民衆版画運動」
2022年4月23日—7月3日
町田市立国際版画美術館
国際性や市場性が重視される昨今の現代美術状況において、個々の生活、社会活動に根差した、戦後日本美術におけるアマチュアイズムの広がりと豊かさを示した意味が大きい。

田中良《二階の窓から》(第106回二科展出品作)
2022年9月7日—19日 
国立新美術館
二科会名誉理事長で99歳を迎えた田中良の第106回二科展出品作は、老境を生きる一人間としての“いま”を素直に受け入れる潔さに溢れる表現で、超高齢化時代を生きる日本人の美意識。

 

山脇一夫

森村泰昌の活動
「ジャムセッション 石橋財団コレクション×森村泰昌 M式「海の幸」—森村泰昌 ワタシガタリの神話」(アーティゾン美術館 2021年10月2日—2022年1月10日)、「森村泰昌×桐竹勘十郎 人間浄瑠璃 『新・鏡影綺譚』」(大阪中之島美術館 2022年2月26日•27日)、個人美術館「モリムラ@ミュージアム」(大阪市)での活動など70歳を超えて矍鑠たる森村の活動に喝采。

柳宗悦没後60年記念展「民藝の100年 」
2021年10月26日—2022年2月13日
東京国立近代美術館
権威のある国立の美術館による「民藝」を美術史の上に正当に位置づけようとする初めての試みとして注目された。

没後50年「鏑木清方展」
2022年3月18日—5月8日 東京国立近代美術/2022年5月27日—7月10日 京都国立近代美術館
清方に興味を持って20年にも満たないが、これまで見た中でもっとも充実した回顧展であった。「美人画だけじゃない」というキャッチコピーも共感できた。

 

『美術評論家連盟会報』23号