4-10

2022年01月22日 公開

イサム・ノグチの夏

山脇一夫

 

 イサム・ノグチの展覧会が東京都美術館で開催された。重量のある石の作品も多くあり、またそれ以上に多く展示されたアルミニウムの作品も改めて再評価する機会を得て充実した内容であった。
 氏の没後も展覧会で作品は見ていたが、それ以外のことは後回しにしていたので今回の展覧会はあらためて勉強をする良い機会となった。
 振り返れば氏の展覧会はこのところ毎年のように開かれている。また2000年に出版された名著と評判の高いドウス昌代氏の大著の伝記も今回初めて読んで深い感銘を受けた。さらに近年でもノグチ氏関連の出版が相次いでいるのが分かった。その中で新見隆氏の『イサム・ノグチ  庭の芸術への旅』が印象に残った。それは、当時私が十分に理解していなかった晩年の氏の石の彫刻や、また、まだ行ったことがないが札幌のモエレ沼公園の意義を教えてくれノグチ芸術への理解を深めてくれた。
 新見氏はセゾン美術館時代の「日本の眼と空間」の展覧会の企画とそのテキストが印象に残っていたが、本書ではデザインの専門家としての鋭い言及も興味深いものであった。そういえば氏は「20世紀の総合芸術家イサム・ノグチ:彫刻から身体・庭へ」展(2018年)や「イサム・ノグチと魯山人」展(1996年)の企画もしている。
 また同じく氏が企画し一昨年から昨年にかけて開催された「竹工芸の名品展:ニューヨーク、アビ・コレクション」(大分県立美術館ほか)は日本の竹工芸のレベルの高さを印象づけるものであった。なかでも床から天井までのたうちまわるように空間を占拠していた四代田辺竹雲斎のインスタレーションは高いレベルの技術に裏打ちされて圧倒的な見応えがあった。それは「伝統文化こそ創造のための糧である」ことの良き証明であった。明治以来百五十年、やっと日本が西洋の美術を咀嚼して血肉化することに成功した一つの証しがここにあるのではないか。
 こうしてみると、アメリカ人の母とアメリカ国籍を持ちながら日本人の父の姓を名乗り日本の伝統文化を深く愛したイサム・ノグチの、伝統と近代、日本と西洋との間の格闘と和解の試みもそれと無縁ではなかったことに気づかされるのだ。

『美術評論家連盟会報』22号