編集後記
美術評論家連盟は2007年、『美術批評と戦後美術』と題された評論集をブリュッケより出版している。戦後美術をテーマとしているが、どちらかと言えば70年代以前に比重がおかれており、畢竟、近過去である80年代以降は手薄な印象も受ける。
そのため、『美術批評と戦後美術』が描き出そうとした批評の地図を本特集が少しでも更新させるものとなっていればと願う。
もっとも、本特集もまた特定の視点に立つものであり、90年代以降の美術批評を一望するものではない。例えば、2000年代以降、日本でも広く読まれている美術批評家、クレア・ビショップやボリス・グロイスの名前はどこにも登場していない。また、私塾やオルタナティヴスペースが言説の構築に果たす役割についても、本来であれば記すべきかとも思う。
その偏りも含め、本特集が日本の美術批評の30年を相対化し、考察する一助となれば幸いである。
最後に、本号を作るにあたりお世話になった皆様に御礼を申し上げたい。新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う多くの変更、制約の中にあって、原稿を寄せてくださった執筆者ならびに編集委員、そして会報の編集に尽力してくださった事務局の山内舞子氏に心より感謝を申し上げる。多くの方のご協力によって、展覧会が相次いで中止、延期され、あらゆる事柄がオンライン化された2020年の一端をも美術評論家連盟の会報に刻むことが出来た。
2020年度編集委員:中村史子(編集委員長)、gnck(副編集委員長)、尾崎信一郎、杉田敦、高橋綾子