レクイエム
山脇一夫
本江さんが亡くなった。学生時代から交流はあったが、社会人になってからも劣等生の私に何かと気を配ってくれて、私が美術評論家連盟に加入する以前は、スペイン関係のシンポジウムに呼んでくれたし、評論家連盟に参加する時は推薦をいただいた。ご冥福を祈る。
また少し前になるが橋本治さんも亡くなられた。橋本さんとは面識はなかったが、一時の間同じ場所で同じ時間を共有したものとして感慨深い。橋本さんと言えば「とめてくれるなおっかさん・・・」の東大駒場祭のポスターで知られているが、その後の小説『桃尻娘』は愛読書だったし、性愛にまつわるエッセイ集『秘本世界生卵』は私のバイブルであった。といっても私は同性愛者ではないが、性愛にホモもヘテロもないことを教えられたのもこの本であった。
さて、かく言う私も今年体調を崩し入院生活を強いられたが、無事この世に戻れて今は余命を楽しんでいる。
今年映画『三島由紀夫vs東大全共闘50年目の真実』が一般公開され上映された。
その頃左翼だった私は三島に興味はなかったが、左翼でなくなった今『文化防衛論』を読んでみて、伝統こそが創造の源泉であると考える私は、三島にほとんど共感を覚えた。しかし伝統の中心に天皇があるとする点だけは納得がいかなかった。
三島と言えば、森村泰昌の《なにものかへのレクイエム》(2007年)の一場面を思いだす。三島に扮した森村は、まるで三島が乗り移ったようにその声に重ねて彼自身の日本文化防衛論の檄を飛ばした。その森村の姿に私は共感を覚えた。《なにものかへのレクイエム》には他にも、レーニンに扮して大阪の釜ヶ崎の労働者にアジテーションをする場面や、兵士に扮して硫黄島に芸術の白旗を立てる場面など印象深い場面が数々残っている。これは力作であり、彼の代表作であると改めて思う。
折しもその森村の展覧会「エゴオブスクラ東京2020-さまよえるニッポンの私」展が今年原美術館で開かれたが、私は病気のため見に行けなかったのが心残りである。