芦屋市立美術博物館の存続問題に関する声明書について  加治屋健司

2019年11月23日 公開

 芦屋市は、2003年10月に発表した行政改革実施計画において、財政難を理由に、2006年3月までに芦屋市立美術博物館の民問委託を模索し、委託先が見つからない場合は、売却や休館も検討するとの方針を示した(*1)。美術評論家連盟は、2004年1月の常任委員会で審議して声明を出すこととし、本江邦夫会員に起草を依頼して、2月に開かれた臨時常任委員会で文案を採択した。2月27日に針生一郎会長と中村敬治事務次長が芦屋市役所を訪れて、同市社会教育部長で芦屋市立美術博物館館長の小治英男氏に声明書を手渡した。声明書は、同市の山中健市長、都築省三市議会議長にも宛てていたが、議会開催中だったため面会できず、小治氏に託した。

 針生会長と中村次長は声明書を提出した後、同市役所で会見した。会見には、兵庫県立美術館館長の木村重信会員と、映画監督で「芦屋市立美術博物館を考えるワーキンググループ」代表の大森一樹氏も加わった。

 会見で針生会長は「公立美術館は開館した以上は責任があり、その責任を簡単に放棄するべきではなく、放棄しても責任は消えない。もっと自助努力をするべきだ。赤字になった地方自治体がこれに倣うことが心配だ」と述べ、公立美術館の責任を強調した。中村次長は「もっと早い時期に提出できればよかったが、声を上げておきたかった。文化や芸術の問題は不退転の問題。お金がなくなったからといって止めるようなことではない。小治館長は、具体の展覧会ばかり開いて困ると言い、関連の作家のパフォーマンスで住民から苦情が出たことをあげて市民の税金で運営しているのに苦情が出るようなことをしてはだめだ、学芸員の自己満足だと強調していた。学芸員に責任転嫁するばかりで美術館を設立した当初の意味などの話はいっさい出てこなかった」と話し、文化に対する行政の無理解を批判した(*2)。二人の発言から分かるのは、行政がいとも簡単に美術館を切り捨ててしまおうとすることへの驚きと怒りである。なお、中村次長は後日、連盟の会報に「芦屋訪問記」を記している(*3)。この文章の中で、中村氏は、具体美術協会に対する自らの批判的な思いを混ぜ込みながら、「「具体」はもう、博物館に納めようではないか――だがそのためには、美術博物館をつぶすわけにはゆかない」と述べて、自らの複雑な心中を吐露している。

 他方、声明書は、「私どもが今もっとも恐れているのは、芦屋市立美術博物館の存続問題を契機として、「国・公立美術・博物館といえども経済原則の前では安泰ではない」という諦めの気分が蔓延することであり、「芦屋」を見習って文化的施設を短絡的かつ無責任に切り捨てようとする地方自治体の登場です」と述べ、経済的価値の一元化、休館・閉館に対する連鎖の懸念を表明し、経済的な理由による美術館の閉館を「文化の死」に至りかねないと厳しく批判している。

 その後、芦屋市立美術博物館は、存続を要望する市民が中心になってNPO法人「芦屋ミュージアム・マネージメント」(AMM)を設立し、2006年度から同館を運営することになった。2010年に市が指定管理者制度を導入したところ、建物管理会社の日本管財(西宮市)と市民グループの癒しの森(神戸市)がつくる共同事業体が選ばれ、AMMと小学館集英社プロダクション(東京都)と建物管理会社のグローバルコミュニティ(大阪市)からなる共同事業体は次点だった(*4)。市議会の民生文教常任委員会で異論が相次ぎ、最終的にAMMなどからなるグループが選任されたものの(*5)、指定管理者制度の導入をめぐって、今後の運営方針に反発した全学芸員4名が2011年3月末で退職し、美術作品を同館に預けていた市民などが絵画や写真など約600点を引き上げたことも報じられた(*6)。だが、残念ながら、こうしたその後の動きについて、連盟が反応することはなかった。

 

  1. 西澤美子「美術評論家連盟が芦屋市に声明書」『新美術新聞』(2004年3月21日)。美術評論家連盟会報では、倉林靖が経緯について書いている。倉林「芦屋市立美術博物館問題の経緯」『aica JAPAN NEWS LETTER 美術評論家連盟会報』第5号(2004年10月)、21頁。
  2. 註1の西澤の記事を参照。
  3. 中村敬治「芦屋訪問記」『aica JAPAN NEWS LETTER 美術評論家連盟会報』第5号(2004年10月)、20-21頁。
  4. 無署名「指定管理者に日本管財など 芦屋市立美術博物館」『朝日新聞』(2010年11月27日朝刊)、29面。
  5. 森直由「地元NPOに正式決定 4月から3年、館長に広瀬氏 芦屋市美博の運営問題」『朝日新聞』(2011年1月25日朝刊)、27面。
  6. 森直由「寄託品600点引き揚げ「学芸員退職不安」 芦屋市立美術博物館」『朝日新聞』(2011年4月1日朝刊)、23面。

 

資料

芦屋市立美術博物館の存続問題に関する美術評論家連盟の声明書(2004年2月27日)

 

 

『美術評論家連盟会報』20号