今年、美術評論家連盟は、5月に「ICC出品作の改変に関する公開質問状」を東日本電信電話株式会社およびエヌ・ティ・ティラーニングシステムズ株式会社に送付し、7月に「「ICC出品作の改変に関する公開質問状」への回答に対する美術評論家連盟の見解について」を公開した。8月に「「あいちトリエンナーレ2019」における「表現の不自由展・その後」の中止に対する意見表明」及びその英語版(Remarks on the cancellation of After “Freedom of Expression?” at the Aichi Triennale 2019)を公開し、9月には「「あいちトリエンナーレ2019」に対する補助金不交付決定への抗議声明」を文部科学大臣および文化庁長官宛に送付した。英語版や返答も含めると5本の文書を作成して、送付・公開したことになる。
こうした声明の送付や公開は、今日の美術評論家連盟の重要な活動のひとつとなっているが、2015年以降のものはウェブサイトで公開されているものの、それ以前がどうなっていたのかが一般に知られていなかった。本特集は、それを調べることから始まった。その結果、1960年代から多くの声明を公開していたこと、またそれ以外にも様々な活動を行ってきたことが分かった。
前号で成相肇前編集委員長は、連盟として即座に反応せねばならない社会的緊急問題の発生は近年増加の傾向にあると書いているが、美術をめぐる今日の状況はさらに悪化していると言わざるを得ない。本号が、こうした状況に対して、声明や抗議に加え、連盟としてどのような取組が可能なのかを考える一助となれば幸いである。
本年末で南條史生会長が任期半ばで会長を退任することになった。近年の連盟は国際的な事業への取組がかつてほど盛んではなく、南條会長のもとで進められると思っていた者も少なくないだろう。激動の2年間の尽力に感謝すると同時に、新会長のもとで新しい連盟の形を考えていければと思う。
最後に、特集趣旨と重複する部分もあるが、本号の編集に際してお世話になった皆様に改めて御礼を申し上げたい。執筆者、編集委員、そして事務局の山内舞子氏に心より御礼を申し上げる。企画にご協力いただいた片岡真実会員、草薙奈津子会員、倉林靖会員、光田由里会員、非会員では、伊東正伸氏、鏑木あづさ氏、水田有子氏、小林明子氏にも重ねて御礼申し上げる。