ブラジル先住民の椅子展、エスニックアート、熊谷守一  山脇一夫

2018年11月09日 公開

 老後の楽しみは、孫の顔を見に行くことと展覧会を見に行ってあれこれと考えることである。以下はその一端である。

 「私のこの3点」にも書いたが、「ブラジル先住民の椅子」展は新しい美の発見であった。そこでは伝統と現代が持続しながら発展をしている。伝統と現代、美術と工芸という近代のアポリアをいとも軽やかに乗り越える樋田館長のご活躍を期待する。
 ついでにこの展覧会の魅力はエスニックアートにもあるだろう。しかもそれはなぜか日本の現代人の私たちの共感もそそる。エスニックアートと言えば、同じ時期に葉山では「貝の道」展が開かれていて、貝を材料に使った世界の民族美術が国立民族学博物館のコレクションによって紹介されていた。葉山ではすでに6年前に国立民族学博物館のコレクションによるビーズを使った同趣旨の展覧会が開かれ印象深かった。ここにはエスニックなものへの美術館の眼差しの転換がある。すでに葉山では、14年前にはドイツの現代美術家アンテスと彼のコレクションであるアメリカ・インディアンのカチーナ人形の展覧会が開かれている。

 今年「熊谷守一」展が国立の美術館で初めて開かれた。熊谷を高く評価するものにとって待望の展覧会であった。
 これまで見覚えのない作品もあったし、新しい意欲的な研究成果に基づくものでもあった。ただ気になったのは、近代美術、とくに西洋近代美術との関連で彼を捉えようとする試みである。ここには、「へたも絵のうち」(つまり自分の内的契機を失くしてはいかにうまく描いても意味がない。つまり借り物である)とつぶやきながら、西洋近代の桎梏の中でもがいていた熊谷の悩みが全然わかっていないのではないかと思うのである。熊谷を理解するためには、近代という枠組みを広げて日本の伝統美術(それも民衆美術)との関わりで見る必要があるのではないかと思う。