新会長挨拶

2018年11月09日 公開

 昨年秋に事務局から立候補の伺いを受け、立候補し、皆さんのご協力で会長に就任しましたことを御礼申し上げます。
 私個人は、1986年に美術評論家連盟に入会し、当時の御三家と喚ばれた針生一郎、中原佑介、東野芳明といった先輩諸氏の活動を見てきました。しかしその後私はCIMAMにも入会し、活動の主体はキュレーションに移行しました。当時を思い出すと、現代美術についての記事は美術手帖や新聞の記事で読むことができましたが、実際の作品を見る機会はきわめて少ない状況でした。そこで私は現代美術の展覧会・作品を日本に招致して、実作を見せる機会を作らなければならないと考え、展覧会の開催を重視することにしました。平行して美術評論家連盟にも頻繁に顔を出し、多くの美術関係者の知己を得ました。
 1998年に当時埼玉県立近代美術館の館長であった本間正義氏の強い意志で、AICAの年次総会を日本に誘致することとなりました。本間氏は、当時フリーで活動していた私に、その事務局運営を委任し、結果的に100人近い美術評論家が世界中から来日し、3日間にわたる討議を実現することができました。年次総会誘致が開催趣旨ではありましたが、会議の一日は「トランジション―変貌する社会と美術―」というテーマで公開の討議に当てられ、充実した報告書もバイリンガルで発刊し、内外に美術評論家の存在とその重要性を知らしめる結果となりました。
私自身はこの10年ほど美術評論家連盟の会議に出席しなくなっていました。その結果この数年の活動の文脈を理解していない点もあるだろうとおもいますので、皆さんに助けていただきながら会長職を全うさせていただきたいと思います。
 美術評論家連盟の課題は多々あるとおもわれますが、なるべく諸案件を前向きに検討・処理し、できれば未来に向かって新しい展開を試みたいと感じています。
 その一つとして、AICAとのこれまでより緊密な交流を促進したいと考えています。 昨年パリで行われた総会に出席しました。そこでは役員の改選があり、6年ほど会長であったバルテリック氏(MarekBartelik)の任期がおわり、ブラジル人女性のゴンサルベス氏(Lisbeth Rebollo Gonçalves )が会長になりました。副会長は立候補者 3 名が、そのまま就任となりました。また日本で総会が開かれたときに来日参加した人たちにも、パリの総会で再会しました。
フランスではAICAのアーカイブ化も進行しています。レンヌ市在住のポワンソ氏(Jean-Marc Poinsot)が市の協力を得てアーカイブを構築し、1947年以後の AICA の関連資料を収蔵しています。将来、日本の美術評論家連盟の資料も整理し、アーカイブ化してオンラインで研究者にアクセシブルなものにできればいいと思います。そこで本年度、その第一歩として会報が紙媒体として発行されていた時代(2001年~2011年)のバックナンバーをWEB上で公開することになりました。喜ばしいことです。
 またAICAには賞制度もあります。2016 年は若手のワン氏 (Víctor Wang)が受賞しました。2017年にはフランス人の哲学者、ディディ=ユベルマン氏(Georges Didi-Huberman)が受賞しました。こうしたAICAの動向とももう少し関係を強化してはどうかと考えます。こうしたネットワークを通して海外の今の評論の動向も移入し、また日本の言説も国際的な位置づけを得られるよう努力すべきではないかと思われます。
 今年の総会は台湾で開催されます。すぐ近くの都市なので、今年のAICAの総会にもう少し日本のメンバーが参加することを促進したいと思います。
今日の社会、国際情勢の変化、あるいは科学技術の発展、新たな哲学の動向による新しい世界観の登場などにはめざましいものがあり、こうした状況の変化はあきらかに美術それ自体にも影響を与えていると思います。このような視点から、これまでとは違った視点を持つ斬新な美術評論が登場することが期待されていますし、それが日本から登場すればさらに素晴らしい事だと思います。美術評論家が今最も傾注すべきことは、このような新しい時代に即した美術評論を世に問うことではないかと思われます。
 さてもう一つの課題は、美術評論の可視化を促進することではないかと思います。そこで、シンポジウムだけでなく、地方講演を開催したり、賞制度を作ったり、WEBサイトの充実を図るなど、まだ創造的な活動は生み出せるのではないかと思います。会報はこれまでPDFの状態でしたが、今後HTMLフォーマットにすることで、より読みやすくなるでしょう。
 最後に、私が再度美術評論の世界に興味を持った理由は、いまさらながらではありますが、美術を巡る言説が重要だということを最近とみに感じているためです。内外で展覧会をやっても、日本人作家が海外に出て行っても、それを巡る十分な言説や評論が支援していかないと、その作家の価値はなかなか理解されません。
 最近では具体やもの派をアメリカが発見したかのような事態が起きていますが、どちらの運動も日本では知られ、認識されていたものであり、すでに相当な量の文章も書かれていました。しかしそれらの情報は国内にとどまっていたために、国際的には存在していなかった状況で、今になって海外の専門家やギャラリーに発見されたように見えています。しかしそうした日本の美術の歴史はもっとはやく日本から発信されて、国際的に認識されているべきだったのではないでしょうか。
 アートは言説なしには価値を担保できず、歴史化する事も困難だと思われます。
 以上のような視点を念頭に置きつつ、会長としての任に当たりたいと思いますので、皆さんには是非ご協力を仰ぎたいと思います。

美術評論家連盟
会長
南條史生