美術を希望の糧にする

美術評論家連盟会長 四方幸子

美術評論家連盟(美評連)は、個人の集合体による自立的な組織として戦後間もない1954年に国際美術評論家連盟(AICA)日本支部(AICA Japan)として創立され、70周年を迎えました。
*70周年に際しては「美術評論のこれまでとこれから」というテーマで会員から意見を募り、「美術評論+」 で公開しました。

美評連は、美術批評を活発に行うことで美術界および社会に貢献することをめざして「共同意見」の発出、「美術評論家連盟会報」の発行、「美術評論+」サイトの運営、トークやシンポジウムの開催、連盟内での国際的なネットワークの推進などを行っています。

70年を経て、社会は大きく変容しました。美術、美術批評も同様です。戦後の美術、1980年代以降の美術のグローバル化を経て、今世紀以降、表現や作家の多様性には目をみはるものがあります。美術評論も、美術誌や新聞への掲載から媒体の多様化を経て、現代はウェブが普及し誰もが発信できる時代です。美評連の会員は、当初は男性のみでしたが、現在は女性も多く、また美術館の学芸員や大学教員が多くを占めています。

美術評論家は、作品から何かの意味や可能性を直観的に感じ取り、その上で作家の意識・無意識的な思いや衝動を探索し、作品の意味や美術、社会に対する位置づけを言葉として発動させます。その方法は実に多様で、各人が基盤とするもの—美術史や美学、哲学や思想、科学などの知見や自身の経験—を踏まえ、論理的な考察そして直観力を総動員して作家、美術界そして社会へと放つのです。

美術は一部の人たちだけのものではありません。美術は、誰もが日々を楽しく創造的に生きるためのエネルギーや想像力の源泉といえます。違和感を感じる作品に出会っても、なぜそのように感じるのか、と接する側の先入観に問いかけます。美術は、自ら能動的に体験し解釈していく自由な場であるのです。美術評論家は、美術や人間の持つ可能性を、専門家としての責任を持って広く社会に開いていくインターフェイスと言えるでしょう。美術評論家の役割は、美術評論だけにとどまりません。そのため美評連では、美術に対する検閲、抑圧などの諸問題に対して共同意見を発信し、社会に美術の重要性を伝える活動も重視しています。

現代社会は、かつてないほどの危機と不安に直面しています。環境汚染や気候変動、パンデミック、デジタル化による情報監視の加速化、生成AIに代表される科学・技術のゆくえ、ポピュリズムの台頭、社会格差の肥大、そして戦争…。加えて自然災害や人災、複合災害がいつ起きてもおかしくない状況です。美術はそのような時代において、私たちの心身をケアし、他者を思いやり、未来への希望の糧となるのです。

美評連は、美術評論家としての各人が、信念を持って美術と真摯に向き合いながら、美術のさらなる活性化とともに社会に貢献していくためにメッセージを紡いでいきます。長い目で見守っていただけますと幸いです。